花魁お楼の生涯~愛に生きた女 第⑧話

[小説]短編

[su_button url=”//hentai-alliance.com/archives/9988″ background=”#0088B2″ size=”2″]第①話へ[/su_button]

お楼 ひたすら働く

悲しい想いを振り払うかのようにお楼は芸に磨きをかけ日々精進した。

朝霧も懸命に支えた。

気が付けば姉妹のような関係になっていた二人。

 

お楼は実の姉のように朝霧を慕い尊敬した。

 

そんな朝霧 ここのところ 疲れからなのか 表情がさえず また 機嫌も悪く

やってくるお客をあしらう姿が多くなってきた。

 

「朝霧姐さん どうしたのかしら?」

そう感じながら なにか物悲しい雰囲気も漂う朝霧のことが気になって仕方なかった。

 

・・・・「たしか前 常連さんの佐吉さんと話し込んでいたの何だったのかしら?」

ふっと思い出したお楼だった・・・。

 

朝霧は「客に惚れたら遊女は終わりだよ」ってよくお楼に言って聞かせていた。

 

「まさか・・・あの朝霧姐さんがね」うっすら笑みを浮かべて仕事に精をだした。

 

次第に遊女たちの間で朝霧のうわさが蔓延するようになってきた。

 

「朝霧姐さん 随分 あいつに惚れ込んでいるようよ・・馬鹿ね あの男のこと何も分かってないのさ」

「太夫朝霧も随分と落ちたものね・・」

 

ひそひそ話を小耳にしたお楼だった。

 

一方 お楼は着々とお客をつけ始め 人気の遊女になった。

頭の良いお楼ならではの駆け引き術が身をこうし たちまちトップ遊女に昇格した。

 

勿論 変わらず 池田が背後に回って 手厚くお楼を支えていた。

 

相談事は常に池田・・・生い立ちの話もすべてし すっかり心寄せていた。

 

お楼花魁デビュー

そんなお楼も吉原に来て苦難多々ありのなか 格子を経て4年半目 ようやっと華やかな花魁道中を行える太夫に上り詰めた。お楼19歳だった。

稼ぎや美貌、教養の深さ すべての条件が揃っていたお楼にとって当然の流れだったのかもしれない。

 

不遇な過去を取り払うかのように日々を懸命に学び 健気に精進した結果だった

 

数日後 揚屋にいる指名客の池田を迎えに行くことになった。

花魁デビュー 1番目の客を約束してくれていた池田だったのである。

 

慣れない黒塗りの三枚歯の高下駄 独特の足運びで進む八文字歩き

お楼はこの日の為に向けてひそかに体力をつけてきた。

 

三度目の正直で太夫の心を掴んだ池田 

・・・とは言っても それは建前で 池田は本当にお楼のことがほっておくことが出来ず

何とかこの吉原から出してやりたいと一人思っていたからだ。

しかし、しきたりゆえ表面上はそのように懸命に太夫を射止めようとするお客を演じていたに過ぎない部分もあった。

 

正直 お楼はそんな池田の心など この段階では分かっていなかった。

 

花魁道中の当日 お楼は朝霧にあいさつをした。

 

「お姐さんの教えがあったからこそ 私は無事 この日を迎えることが出来ました。本日 池田様をお迎えにあがります」

 

華やかな衣装 お化粧をほどこし 1番真っ先に朝霧の部屋へ向かった。

 

「あんたもいっぱしの花魁になれたんだね。 これからは胸を張って堂々と太夫として生きていきなさい 本当にとても綺麗だよ」目に涙を浮かべて喜んでくれた。

 

時折 胸が気持ち悪そうにする朝霧の変化に戸惑うお楼だったが後にそのことが分かることになる。

 

お楼 華やかに美の舞をする

禿、新造 下男を脇に固め 目抜き通りを一行がゆっくりと歩む。

華やかな道中の様は吉原を行き交うすべての客を楽しませた。

 

豪華な打ち掛けを重ね着し大きな 大きな俎板帯を締め 高下駄をはいてゆっくりと

外八文字で視線をまっすぐみつめ池田のもとへ歩んでいった。

 

美しく化粧が施されているお楼。

切れ長の澄んだまなざしはすべての人々を魅了した。

妖しい雰囲気 ・・・顔から襟足へ向けた白粉 悩ましいうなじ。

 

吉原に来たばかりだった頃のお楼の姿はなく風格に満ちた神々しく輝く太夫秋桜がそこにいた。

 

池田のもとへ着いた。

「池田様 お迎えにあがりました」

「秋桜 待ち長かったよ」そういうと静かに微笑んだ。

 

池田は花魁道中で迎えられる上客ということは微塵も鼻高々になることはなく

いつでも謙虚な姿勢にお楼は心から感謝していた。

「池田様はどうしてここまで私を大切にしてくれるのか」

いつも感じていた。

 

お楼 池田とともに吉原へ戻る・・・・

 

太夫・・ 最高位の遊女のお楼

 

自室を与えられ 顧客は豪商や農豪などの富裕層ばかりだった。

それぞれの顧客達・・3度目の正直でやっとお楼と肌を重ね合うことが出来

各々がご満悦だった。

 

美しい顔 教養 巧みな話術 高額な金を出してでも太夫 秋桜と疑似恋愛を楽しむべく

男たちはせっせと金を払った。

 

色々な男たちが居た。

人生観を熱く語る男。

妻と別の女性と恋愛を楽しむ男。

単にお楼を性処理の道具とする男。

 

徹底的にじらし男心を刺激する。

嫌よ嫌よ・・・と可愛くすねる秋桜。

聡明な女と妖艶な女 両方兼ねそろえた秋桜。

 

抱かれる最中 よく 過去の出来事を思い出していた。

 

与一郎と強引に愛し合わされたあの晩の出来事。

それを思い出して陰部を刺激し果てた自分。

与一郎の男根を愛撫したあの頃の自分。

 

それが今では何人もの男を手玉に取る遊女になった自身・・・・。

 

十人十色 顔が違うように性器の大きさだってさまざま。

最高の名器だ。

 

一人ひとりにあった感じ方も常に研究をしていた。

 

膣の締め具合もそれぞれで調整した。

変態には変態に徹して接した。

 

「私の陰部はどれくらいの男根を食ったことだろう 私の乳首は若干形状が変わったな」

などといかに激しく吸われてきた事を物語るように自身の体の変化にも敏感だった。

 

よく 赤子に吸われたら乳頭が大きくなるというが・・赤子じゃないが男たちの絡まってくる舌や歯によって刺激でくっきりした乳頭になったようだ。

とても素敵だ。

乳頭の長さも1.5センチと卑猥度も随分増した様だ。

 

大陰唇も小陰唇もすっかり大きくなった。

男根を咥えたときに丁度大きな唇のように陰茎を咥え込む。

滑りがいいように秋桜自身で陰核をしごいて感じて愛液を放出した。

 

自慰にふける太夫に悶絶するほど興奮する男たち

 

厭らしくのけぞって・・・ちらりと流し眼。

「私はあなたのモノ」と言わんばかりに演技も含み男を魅了した。

 

だが 差し込まれた男根で果てることはなかった。

そこには遊女としてのプライドというよりも「本当の喜びを伝えるのは愛おしいと思った相手だけ」という気持ちが常にあったからだ。

 

そんな愛おしく思っていた与一郎が無残な死を遂げ お楼は愛を感じぬまま男の性処理の

道具となった人生を割り切って生きようとした。

 

 

朝霧妊娠 

遊女たちが朝霧姐さんのうわさばかり

「姐さんも終わっちまったね・・あの男が逃げたようだよ しかもお腹に子までいるっていうじゃない」

 

「散々 いい想いしてきたんだし ま・・いいんじゃないの?」

 

各々が勝手なことばかり言う 

 

お楼 朝霧のもとへ・・・

「お姐さん 皆が噂してることはホントなの?」

一瞬 沈黙したがひと呼吸おいて・・・・

 

「ああ・・噂は本当だよ 一緒になろうって言ってくれたあいつはもう来ないよ」

「お腹の子はどうするの?」

「おろそうと思って色々したけどなかなか強い子でさ・・段々 愛おしくなってきてねえ・・」

 

モノ悲しく語る朝霧・・今までの華やかな太夫の姿は完全に無くなっていた。

 

「お楼・・もし私に何かあったら この赤子 あんたに育ててほしいんだ」

身うちのいない朝霧 頼るところは一切なかった。

 

「何かあるって?何を言ってるの?お姐さんが居るじゃないですか」

 

「そうだったね・・・」

寂しそうに小さくつぶやいた。

 

お楼 池田に朝霧の腹の子のことを相談した。

 

池田も不憫そうに話を聞いてくれた。

 

「秋桜は本当に心優しい女だよ 皆に内緒だが私も出来る限り力になってあげたいと思うから困ったらすぐ言ってくるのだよ」

 

「はい 池田様 」

 

二人で会う度に 行為はそこそこで 話題は朝霧のことばかりだった。

 

朝霧逝く

・・・・それから 月日がながれ 朝霧がお産になった。

 

急いで駆け付けたお楼。お産は明け方だった。

 

苦しそうに手拭いを口にくわえ 必死にいきんでいる

時おり 呼吸の粗さが目に付いたがお産はこんなものなのだろうと

経験のないお楼は安易に考えていた。

 

「うーーーーーーー!」

声にならない声をあげて顔を真っ赤にしていきむ。

 

産婆が熱いお湯をはって 生まれてくる赤子がいつでも出てきていいよう

待機している。

 

「さーーもうひと踏ん張りだよ  頭が見えてきた!」

「お姐さん!もう少しよ!」

 

全身汗だくになる朝霧。

 

緊張の面持ちで ただ 赤子が出てくるのを待つお楼。

 

その時・・・・

 

「おぎゃーーーーおぎゃーーーーー!」

 

元気な産声を上げた。

可愛らしい女の子だった。

 

「生まれた!」

「あんた!今 眠るんじゃないよ 起きとくんだよ!」

産婆は朝霧の体を叩きながら声をかける。

 

そう・・・眠ることで意識が混濁し 難産の場合 そのまま死にいたることがあったからだ。

 

「お楼 アタシ 母親になったんだよ 可愛い子・・もっと見せて 」

 

朝霧は産婆に頼んで胸のところまで持ってきてもらった。

真っ白な赤ちゃん 小さな紅葉のような手 何もかもが愛おしい。

 

安心した朝霧  お楼の方向を見て・・

「少し休むよ・・・名前は・・・お菊  よろしく頼むよ・・」

 

朝霧が目を閉じた。

お楼は数時間付き添った。仕事まで時間は少しはあった。

「お姐さん 私はここにいるから安心して休んで 」

 

そう言ってお楼も少し目を閉じた

 

気が付いたら どれくらい経っただろう

 

遠くから産婆の叫び声が聞こえる気がした。

はっと我に返り 「どうしたの?」

 

「逝っちまった・・・ほら  顔を見てみな 眠ってるようだ  やっと昔の

朝霧に戻れたよ ゆっくりお休み」

赤子を抱いて涙を流していた産婆

 

「駄目!駄目よ!お姐さん!目を開けて!この子と一緒に幸せになるんじゃなかったのーーーー!」

お楼 泣き叫ぶ。

 

「朝霧は心の臓が強くなかったんだよ なのに この子を産むって聞きゃしなかったんだよ」

 

命がけで生んだお菊  以前 お楼にお願いしたことの意味はこのことだったのか

 

お菊を抱いたまま 美しい顔で眠る 「母 朝霧」を見つめていた。

 

お楼 お菊を引き取る

お楼20歳。

散々悩んだ結果 お楼はお菊を引き取って自分の子として育てる決意をした。

・・・・・が今のままでは年期も明けていない どこへも行くことが出来ない

すぐさま 池田に相談をした。

 

池田は静かに話を聞いた

「朝霧は残念だったがお前にはこの子が残ったじゃないか」

「私はどうすればよいものか 今のままでは・・・」

 

池田がお楼の手を握りしめ

「秋桜 この子と共に私のところへ来ないか?」

「え・・・?私はまだ年期があけておりません とても・・・」

「心配するな 初めからお前を見たときから このまま縁があるようなら

お前を迎えたいと思ってきたのだよ お前は聡明で賢くて私の商いの片手になるには

十分な人材だ こんなところにいつまでもいるものじゃない 私を手伝ってくれないか」

頭を下げて真摯にお願いしてきた池田。

 

お楼は床に崩れ落ち ただただ 泣いた  小さな娘のように

父親に甘える娘のように。

 

話は決まり 池田は早速 楼主のもとへ。

 

「内としては稼ぎ手のお楼にいなくなられてはちょっとですね・・・まだ20歳ですよ」

「では・・これでもかな」

そういうと付き人に持ってこらせた大きな箱を差し出した。

 

中を開けて感嘆の声をあげた楼主

 

通常では考えられないほど莫大な金が積まれていた。

通常の2倍・・破格値だった。

 

一気に態度を変えた楼主

「はい これでお楼の年季明けとさせていただきます ありがとうございました」

 

吉原じゅうに驚きの声が広まった。

「秋桜が決まったってよ たった5年で身受け先決まったなんて凄すぎるよ」

「朝霧姐さんの赤子も一緒に身受け決まったってよ」

「アタシも頑張って池田さんものにすればよかったわ」

「いや・・あんたじゃ無理!」

「頑張ってきた秋桜の勝ちだ みんなで祝福してやろう」

苦楽を共にした仲間たちも祝福してくれた。

 

吉原を出る前夜 お楼は朝霧が大事にしていた自慢のかんざしを見つめて

「お姐さん お菊のことは心配しないで 私が立派に育てるから」

そういうと頬に涙がつたった。

 

吉原を去る

お楼20歳

出迎えてくれた池田とともにお菊を連れて池田の屋敷に向かった。

着くと皆が一斉に優しく出迎えてくれた。

 

「奥様 分からないことがあったら何でも私どもにお聞きください」

池田がしっかり根回ししてくれていた。

 

不平が出ないよう しっかり金も握らせていた。

 

お菊は池田夫婦の養女として迎えることになった。

 

お楼は献身的に池田につくし池田もそんなお楼をますます愛おしく思うようになった。

 

夜もしっかり池田の奉仕する。

健気に尽くしてくるお楼が可愛くて仕方ならない。

 

頭のてっぺんからつま先まで毎晩毎晩池田の唾液でぬるぬるにされた。

おもちゃも駆使してお楼の女をどんどん開花させていった。

 

自分だけのお楼に・・・

自分色に染め上げて行った。

 

男根の形をした性具をとりそろえていた。

それを綺麗なピンクの膣口へ入れる。

抜き差ししながら同時に蕾を口ですすった。

 

乳首は大きくなり 「旦那さま 乳首を吸ってください 」

激しく求めたお楼。

池田が美味しそうに吸うとお楼は激しく歓喜の声をあげた。

 

「ああ・・・おもちゃもいい塩梅です 奥まで響きます あなたーーーー!」

腿に滴る愛液を綺麗に舐めとってあげた。

 

そしておもちゃと男根を2本差し込んだ。

腰をぐんぐん突き上げる。

 

お楼の穴はタコつぼのようにぬるぬると池田の絡みついていた。

あまりの心地よさに毎晩求めてしまう池田だった。

 

お楼の厭らしい声に やはり あの与一郎同様 盗み聞きして 一人で射精する者もいた。

美しく聡明で床上手なお楼なくして池田の人生は考えられなかった。

 

商いにも精を出し 夫を持ち上げるやり手のお楼。

商いはより一層繁盛していった。

 

 

お楼24歳

お楼を迎えて4年の月日が流れた。  

池田からお楼に打診があった

「お楼 お前の父上に会いに行かないか お菊を連れて」

お菊4歳  おませでやんちゃな女の子になっていた。

 

「お母様?お父様がおじいちゃまのところに行こうっていうの」

嬉しそうにはしゃぐお菊。

 

お楼は今までの記憶が走馬灯のように蘇ってきた

 

「あなたのご厚意 喜んでお受けします」

 

お楼 故郷へ帰る

若き日に住んでいたお楼の懐かしい屋敷が見えた。

お楼はお菊の手を引いて池田とともに向かった。

 

屋敷に着くと 当時奉公人だったものがまだいた。

「お嬢様?お嬢様ですね!」泣いて驚くのは当時教育に専念してくれていた女中だった。

 

「奥様はお亡くなりになり 旦那様もすっかり元気が無くなられて・・・」

 

そう言って 父のもとへ案内された。

 

「旦那さま・・・・」

「なんだ・・」気のない返事。

 

「父上様・・・」

 

どこかで聞いた懐かしい声。

 

振り返ると なんと・・・・そこには10年前出て行った娘お楼が居た。

「お楼か!」

声にならない声でお楼の名を叫んだ。

 

池田は松尾に事の流れをすべて包み隠さずに話した。

 

お楼と与一郎のことも新之助のせいだったことも・・・。

その新之助も与一郎も亡くなった事も。

 

「お楼 話は池田様からすべて伺ったよ。 すまぬ・・・何も知らなかったとはいえお前を疑って罵った私を許してくれ・・・」

声を詰まらせてただ下を向いてばかりいた父上だった。

「いいのです 今はこうやって幸せにしてますから ご自分を責めないでください」

 

と・・・・その時 お菊が・・・。

 

「おじいちゃま これからもお菊をよろしくね!」

無邪気に笑った

 

その笑顔でいっきに緊張感が吹っ飛んだ。

 

父上 愛おしそうにお菊を抱きしめた。

 

お楼が出会った大切な人の子供。

でも お楼の産んだ子供と同じだ。

自分の孫には変わらない。

 

池田にも深く感謝を述べた

 

後に池田の計らいで定期的に会えるようになったのだ

 

お楼と出会った様々な人

新之助 与一郎 お菊 朝霧 吉原の仲間 伴侶になった池田 そして二人の子供になったお菊

 

亡き母上は姿なきお菊の「おばあちゃま」 

きっと天から見守ってくれるであろう。

 

お楼 28歳

お楼の希望で 年季奉公を明けた行き場のない遊女たちを迎え 奉公人としての

第二の人生を歩ませるべく尽力した。

 

後に吉原遊女の間では伝説の太夫 秋桜として記憶に残された。

 

お楼36歳 肺の病で逝く。

 

残された池田は今まで以上に商売に邁進し お楼の意を継いで

遊女たちの「親」 となり世に貢献したのであった。

 

小さかったお菊も16歳になった。

 

養父 池田に連れられ 歌舞伎を見に街へ出た。

偶然 花魁道中の列に出会った。

 

妖しいまなざしの花魁が一瞬 お菊を見た。

 

母親を見た事が無かったお菊の目に本当の母 朝霧が重なって見えた。

 

「誰だろう・・凄く温かい眼差し・・・」

胸が熱くなったお菊。

 

そして 立ち止まって見入っていた。

 

少し先のほうで池田が待つ。

「お菊 早く来なさい 急がないと始まるよ」

 

「はい お父様―」

小走りに歩む。

 

朝霧のことはお菊には伝えられていない。

お菊の母はあくまでもお楼 

そう お楼なのです。

 

お菊には養女ということは伝えていなかったのであった。

奉公人もすべて池田との約束を守ってお菊に言う者など一人もいなかったのである。

 

母親お楼の中にお菊の母朝霧が永遠に生き続けていた。

まさに二人は一心同体だった。

 

伝説の二人の太夫。

 

そんなふたりの素晴らしい「母」をもったお菊。

 

運命のいたずらとはこのことだろうが池田にとってそんなことはどうでもよいことだった。

 

吉原でのお楼との出会いにただ神に感謝した。

 

「あの花魁のお姐さま どこかであったことあるような・・・」そう池田に言うと

池田は「そうだな・・いや・・お前の母親は・・・」そうひとり呟いた。

 

「え・・?お父様今何と?」

「いや・・ただの独り言だ」

お菊にはすべての真実は打ち明けてない。

その判断で正解だったのだ。

 

「あくまでも母親はお楼 それでいいのだ 朝霧もきっとわかってくれているはずだから許してくれるであろう・・」

 

出会いから別れを回想する池田の心が熱くなった。

 

「雲が綺麗だな・・どこまで流れていくのだろうか・・・」

 

空を見上げたら 綺麗な白雲がゆっくり流れて行っていた・・・

 

「ほらー今度は父上が止まったね  早くなさい!」

手招きをするお菊。

「そうだったね  まいったな 母上そっくりになってきたな」

「当たり前でしょ!」

 

こんな素晴らしい娘を与えてくれたお楼と朝霧に感謝の気持ちしかわかない池田だった。

 

高額な身受け金をいつまでも感謝されてきた池田。

「いや・・お楼 お前から受けた恩恵はそれに比べものにならないほど大変大きなものだったのだよ」

 

「素晴らしいお菊を残してくれたじゃないか」

 

 

そんなお楼が最後まで気にかけていた行き場のない遊女たちに救いの手を差し伸べることがお楼への恩返しと池田は尽力した

 

「あなた ありがとう」

 

お楼の心の声がいつまでも響く・・・・

 

 

コメント

タイトルとURLをコピーしました