少女進化録 第①話

この物語はフィクションです。登場する人物、団体名等、名称は実在のものとは一切関係ありません

 深夜のアパートの一室。幾分か照度を落としたLED証明の下で、その身体は期待か恐怖か、そのいずれもかで微かに震えていた。
 普段あまり日の光を浴び慣れていない白い肌が、紅く染まっている。頰だけでなく、耳も、首筋も。
「はは、すげぇ真っ赤。期待してる?」
 晴一の揶揄の声に、幸哉の肩がびくりと跳ねた。
「っ……期待、するほどまだ……この身体に慣れてないよ。」
 幸哉が男として、以外の性感を覚えた事がないことは、晴一が一番よく知っている。
 震えを含んで絞り出す様な吐息を含んだ言葉は、晴一の独占欲を強く満たした。
 早くこの身体を自分のモノにして、更に満たされたい。
 晴一は待ちきれずに手を伸ばして、だぼだぼと身幅も丈も余らせるシャツに手をかけた。こうして見ると小さくなったものだ。つい数日前までは、晴一と幸哉の視線の高さは変わらず、幸哉は細身とはいえきちんと肩幅も胸板もあったのに。
 男の身体を最後に抱いたのは何時だったか、そんなに前であるはずもないが、ここ数日のどたばたで随分前に感じた。

「俺、女の子になってしまうんだ」
――そんな突拍子もない事を幸哉が言い出したのは、大型連休も終わって初夏の陽射しを半袖から伸びた腕に強く感じる様になった頃からだった。
「……は?」
 その言葉の意味をすぐには理解できず、目を丸くした晴一に、困ったように眉を下げて幸哉は微笑んで見せた。幸哉は何時も眉が下がり気味で、穏やかそうな垂れ目も相俟って、何時も困り笑顔の様な表情を浮かべている。そんな幸哉を見慣れた晴一には、今の幸哉の笑顔は本気で困った時のものなのだな、と判別がついた。
 晴一と幸哉は大学の同じサークルで出会った。
 サークルは「映画同好会」を謳っていたが、殆どのメンバーは映画は程々に観る程度で、実質飲みサークルと化している会だ。規模もそれ程大きくは無く全学年合わせて40人程。
 晴一も、映画マニアかと言われば首を横に振るが、特撮映画やアクション映画には少しばかり造詣が深く、そのサークルに身を寄せていた。
 そんなサークルの飲み会で、隣の席に座っていたのが幸哉だった。
 初めて言葉を交わしたのは、「映画、好きなんですか」という晴一の一声だった。
「好きだけど……あんまり有名所は見ないから」
 穏やかそうな表情に、少し長めの癖っ毛の黒髪、目立った主張をしないものの小綺麗に見える服装。他人に嫌悪感を与えることこそないだろうが、自己主張も全くしない。それが幸哉の第一印象だった。
 その見た目と同じく、メジャータイトルが好きな普通の男……なのかと思われた幸哉の思わぬ返答に、晴一は目を丸める。
「へえ。じゃあ何見てるんですか?」
「うーん……あんまり大きな声では言えないけど」
 十人並みな謙遜をしながら、幸哉は照れ笑いを浮かべた。
 どんな映画を口にするのだろう、とわくわくしながら整った幸哉の横顔を見る晴一の方を振り返り、幸哉は
「ソドムの市とか」
 とポルノ映画を口にした。
 『ソドムの市』が分からず、その場は濁したものの、帰り道にそのタイトルを検索した時の衝撃を、晴一は未だに忘れられない。
 それが切っ掛けで晴一はどんどん幸哉に惹かれてゆき、気がつけば二人は付き合っていた。
 同性同士であること等、随分小さな問題に思えた。幸哉も、恋愛関係に陥る過程でそういったジェンダー論を口にすることはなかった。
 まるで生まれた時からの決まりごとの様に、晴一と幸哉は恋人になっていた。
 そんな関係も、気がつけばもう出会ってから一年以上が経過するかという頃だった。

 幸哉が「女の子になる」等と言い出したのは。
「……どういうこと?手術でも受ける……とか?」
 今まで幸哉の口から性転換をしたいだとか、身体と心の性別が違うだとか、そういった話は聞いたことがなかった。
 踏み込んでいい話題なのかとも思ったが、言い出したのは幸哉の方だ。
「ううん、そうじゃなくて」
「じゃあ……っ」
「オカルトみたいな話だから、笑わないで聞いて欲しいし、嘘じゃないって信じて欲しいんだけど」
「……わかった、信じる」
「うちの家系でね、たまにあることらしいんだ。大人になってから、身体の性別が変わってしまうことがあるって」
「……性別が……?」
「うん。勿論変わらない場合もあるんだけど……俺は運悪く“当たった“みたいで。」
「……じゃあ、」
「身体の作りが変わるのにそんなに時間はかからないと思う。……晴一くんは、男の俺が好きなのかな。だとしたらこれは別れ話になっちゃうんだけど」
 二人の関係でこうして性別の話題が出るのは初めてで、晴一の瞳が一瞬困惑に震える。
「……俺は、男だから幸哉が好きな訳じゃない」
「……うん」
「幸哉のことがいいんだよ」
「……ありがとう」
 幸哉は噛み締める様に微笑んで、隣に座った晴一の手をそっと握った。
 深刻な話題のはずが、にわかに甘い空気になり、晴一はどぎまぎと、幸哉の手を握り返した。
「もう一つ、聞きたいんだけど」
「…なんだよ」

「完全に女の子になる前の身体って、抱きたい?」

 相変わらず性に対して明け透けな恋人だ。
 晴一の思考は一瞬停止して、
「……抱きたい」
 嘘もつけずに、好奇心と性欲に負けた返事をした。

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