ケツアナメデルと3人のミナヨ 第③話

この物語はフィクションです。登場する人物、団体名等、名称は実在のものとは一切関係ありません

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 ベランダで一緒に喫煙していたあの夜から、僕は時折、矢島南世を見かける機会が増えた。
 いや、増えたというか、これまでも意識していなかっただけで、顔は見かけていたのだろう。
 何しろ、彼女は近所のコンビニでレジ係をしているのだから。

 向こうも、僕のことを認識してくれたらしく、コンビニで顔を合わすと挨拶をしてくれるようになった。
 話を聞くと、彼女は女子大生らしい。
「仕送りだけではきつくて。空いている時間はほとんどアルバイトですよ」
 彼女はニコリともせずに言った。
 ふと、僕によこしまな心がよぎった。苦学生ならば、お金さえきちんと渡せば、彼女は僕にケツの穴を見せてくれるかもしれない。
 ひょっとすると、あの伝説のケツアナミナヨのケツの穴を生で見られるかもしれないのだ。
 もっとも、彼女がケツアナミナヨなのかは、まだ定かではないが。
「そう、大変だね、煙草奢ってあげるから、頑張って」
 しかし、僕にそんな勇気はなかった。レジで煙草を余分に買って、その一つを彼女にあげるくらいのものだった。
「ありがとございます」
 やや舌っ足らず気味で、振り向いて背後のケースから煙草を取り出す矢島南世のケツを合法的にじっと見る。
 今日は藍色のジーンズにケツを包んでいる。きっと、その中には隠し金山の如く価値のあるケツの穴が潜んでいるのだ。

 その日、僕と杉元美奈代は、小じゃれたバーにお酒を飲みに来ていた。
 今日も外回りを終えて、会社に戻ってきた僕を待っていたのは、部長に怒られたらしく、意気消沈している彼女の姿だった。
 彼女とは5年間一緒に働いているが、こんなに落ち込んだ姿を見るのは初めてである。何か、事情があるに違いない、と僕が声をかけたのだ。

 早い時間のためか、まだお客がまばらな静かな店内で、僕と杉元美奈代は濃いカクテルを飲みながら話していた。
 話を聞くと、彼女が提出した見積もりの甘さに部長が怒ったらしい
「部長にね、ケツの穴がちっちゃいやつだなーって言われちゃって」
 僕は、飲んでいたジンライムを吹き出しそうになった。
「女性にそれ言うなんて、セクハラだよね」
 ちょっと気の強い面がある杉元美奈代は、たびたびこうして上司とトラブルを起こしていた。
 諍いごとを抱えておきたくない僕は、そのたびに両者の間の中和剤になることが多い。
「私のケツの穴を見たわけじゃないのに、ひどいよね」
「いやいや、ツッコミどころはそこじゃないでしょ」
「そうよね。私、好きな人でも、ケツの穴は絶対に見せないもの」
 思わず、僕は周りの目を気にした。
 杉元美奈代とは、何度かお酒を飲みに行ったことはあるが、こんなことを堂々と言う女性ではない。
 少なくとも、ケツの穴を連呼するような、酔って乱れるタイプではないはずだ。
 さらに酒が進んで、ますます杉元美奈代は我を失ってきたように思える。やや呂律も回らなくなっている。
「一度、ケツの穴を比べてみればいいのよ。きっと、私のは、部長のよりでっかいんだから!」
 もしかしたら、笑うところなのだろうか。判断に迷う。僕は、乾いた笑いを浮かべた。全く酔えない。
 じゃあ、僕が第三者として、キミと部長のケツの穴の大きさを比べてあげるよ、なんて軽口を叩ければどんなに楽か。
「よし!」
 ある程度、お酒が進んだところで、杉元美奈代は勢い良く立ち上がった。
「ちょっと、うんこしてくる!」
 僕は、食べていたパスタが鼻から飛び出しそうになった。
 杉元美奈代がトイレにうんこしに行っている間に、僕は考え込んでしまった。
 明らかに、これまでの杉元美奈代ではない。何かが彼女のケツの穴スイッチを入れたに違いない。
 それは、間違いなく、部長の「ケツの穴」発言なのだろうが、理由がわからない。
 僕は、今まさにリアルタイムで便器にしゃがんで、ぶりぶりとうんこしている杉元美奈代のケツの穴を思い浮かべながら考え込んでしまっていた。

 しばらくして、杉元美奈代はせいせいした表情で戻ってきた。
「ぶっといの出してきてやったわ。あの太さを見れば、誰も私のケツの穴が小さいなんて言わないはずよ」
「杉元さん、さっきからケツの穴、ケツの穴って・・・何かコンプレックスでもあるの」
 途端に、彼女の動きが止まった。
 なにか、禁句を発してしまったのだろうか。
「昔の話だけどね」
 しばらくすると、彼女はしょげたように頭を垂れてぽつりぽつりと話し始めた。
「初めて付き合った彼氏に、私のケツの穴でドン引きされたの」
「え?それはどういう?」
 店内には、彼女の声に合わせるかのように、音域の低いバラードが流れ始めていた。
「きたねーケツの穴だなって。確かにね、当時はケツ毛の処理もしていなかったし、それに私」
 彼女は口ごもりかけたが、意を決したように告白した。
「痔持ちだったから」
 僕は、目を見張った。
 杉元美奈代は、そんな僕の驚きに気付かないように言葉を続けた。
「今は、手術もしたし、手も入れてきれいにしているけど、当時は立ち直れないほどのダメージだった。自殺も考えたほど」
 同じだ。僕と同じだ。
 僕のような人が目の前にいる。あまりに汚い自分のケツの穴に絶望して、ケツアナミナヨのケツの穴を追い求める自分がそこにいる。
 しかも、憧れの杉元美奈代さんが、である。
「だから、それ以来、ケツの穴と言う言葉には敏感になっちゃって」
 彼女の眼にはいつしか涙が浮かんでいた。
「手術した分、他の人よりケツの穴はちょっと大きいと思う。自慢にもならないけど」
 既に杉元美奈代は涙声になっていた。
「ごめんなさい、こんな席で同期にケツの穴の話なんかして」
「杉元さん、君にぜひ聞いてもらいたいことがある」
 僕は覚悟を決めた。自分のケツの穴のために涙を溜めている同僚に対して、僕ができることと言えば・・・。
 真剣な僕のまなざしに、杉元さんの身が堅くなったように見えた。
「僕も、同じなんだ。・・・つまり、僕も・・・痔持ちだったんだ」
 杉元美奈代の目が見開かれた。
 その瞬間、全ての時間が止まったように思えた。バーテンダーも、他の客も誰もいない。僕たちだけのケツの穴空間がそこにあった。
「だから、君のコンプレックスはわかるし、わかってあげたい。人と違うアンナチュラルなケツの穴を持つ人間として」
 次の瞬間、杉元美奈代の目じりから透明な涙が零れ落ちた。
 僕は、ハンカチを取り出すと、彼女の涙をぬぐった。
 そして、僕は改めて言った。
「君のケツの穴を見たい」
「わたしも」
 杉元美奈代も言った。
「あなたのケツの穴を見たい」

 その夜、僕たちは結ばれた。
 お互い、余すことなく、お互いのケツの穴を堪能した。
 夢にまで見た杉元美奈代のケツの穴が目の前にあった。
 手術で整形している彼女のケツの穴はナチュラルではない。正直、不格好だ。一部が、痔の後遺症としてひだのようにはみ出ていたりする。
 しかし、そんな自分の醜いケツの穴にコンプレックスを抱く彼女が、僕は愛おしかった。
「きれいだよ、君のケツの穴」
「私のケツの穴を認めてくれる人がいるなんて」
 バーでぶっというんこをしてきただけあって、それ相応の匂いはしたが、それさえも僕にとっては自然な光景だった。
 この匂いこそナチュラルアナルなのだから。
 僕は、勘違いをしていたのかもしれない。確かに、ケツナアミナヨのケツの穴は自然な美しさだ。世界ケツ穴コンテストがあれば、ケツアナミナヨはきっとミスケツの穴として選出されるだろう。
 しかし、この不格好な、お世辞にも客観的にきれいとは言えない杉元美奈代のケツの穴も、またナチュラルなのだ。
 僕は、愛おしい杉元美奈代のケツの穴のしわの一本一本を丁寧に指でなぞっていった。そのたびに、彼女は声を上げてよがった。
 お返しに、杉元美奈代は僕のケツの穴を優しく舐めてくれた。ケツの穴は性器ではない、と思っていた僕も、さすがにこれは射精してしまうほどの快感だった。
「私のケツの穴、大きいでしょ?」
「僕と同じくらいだよ」
 そして、僕たちは、お互いのケツの穴をなめた舌と唇で長い長いキスをした。

 僕と杉元美奈代はケツの穴にコンプレックスを持つ者同士とて、長く続いていくものだと思っていた。
 しかし、彼女とはそれっきりとなった。
 翌日、出社してこなかった彼女は、そのまま行方をくらませた。
 連絡を取ろうにも、彼女の携帯につながることはなかった。

 おそらく、酔いが冷めて、自分の取った行動を認識したのだろう。
 杉元美奈代は、ケツの穴が持つ魔力に目覚めたに違いない。
 ケツの穴が好き。世間一般の常識から考えると、これはアブノーマルだ。彼女はアブノーマルな自身に目覚めてしまったのかもしれない。ノーマルではない人間は、ノーマルな世界では危険な存在だ。その時に、世間とは違う自分の嗜好が恐怖の対象になったのではないだろうか。
 こうして、杉元美奈代は、僕の前から姿を消した。

 僕は、久々にケツの穴サイトに腰を下ろしていた。
 杉元美奈代失踪のショックから、僕がケツの穴に対する情熱を失いかけていたのは事実である。
 しばらくの間、このサイトからも足が遠のいていたのだが、自分の嗜好までは完全否定する気になれなかったのだ。
 それでも、僕は、ケツの穴が好きなのだ。
「おお、ケツアナメデルくん、久しぶりだねえ」
「アナルラブ(はーと)」
 そこには、大腸大破壊さんとアナルレイくんがいた。そして、いつものようにケツの穴品評会を行っている毎度の光景があった。
 それは、とても心安らぐ光景だった。

 PCの壁紙には、ケツアナミナヨの極上のケツの穴を貼っている。
 僕は杉元美奈代の幻に問いかける。なぜ、僕の様にこの世間で生きて行こうとしなかったのか、
 僕の尻の穴への執着は、確かにアブノーマルなものなのだろう。
 ただし、なぜ、アブノーマルがいけないのか。人の趣味嗜好なんてそれぞれだ。
 迷惑さえかけなければ、それは尊重されるべきものではないのか。
 少なくとも、杉元美奈代の気持ちと嗜好がわかる僕と言う人間がここにいるのだから。
 ともに、手を携えて、ケツの穴道に邁進すればよかったのだ。
 しかし、それでも、僕はやっぱり異常なのだろう。そして、杉元美奈代は、きっと正常なのだ。正常が異常に足を踏み入れようとした時に、人によっては悲劇が始まる。
 僕は「うん、張りがあって艶もよい、ケツミシュラン認定」などと、画像にコメントを入れつつ、そんなことをぼーっと考えていた。

 その時、サイト上にアクセスしてくるハンドルがいた。
「尻の穴スキーの諸君、おひさ~」
 ハンドルネームは「ケツアナミナヨ」である。
「おおおおおおおおお!」
 大腸大破壊さんとアナルレイくんが声をあげる。
「ワシは、自分のケツの穴に自信がないから、ミナヨさんみたいなきれいなケツの穴に憧れていたんだ」
 久々の、ケツアナミナヨの登場に、大腸大破壊さんが興奮気味にテキストを打ちまくっている。
「でも、そんなワシのケツの穴を認めてくれる存在がいて、ワシはそれを糧に新しい人生を歩んでいこうと決意したところなんだ」
 アナルレイくんも続ける。
「俺は、ケツの穴なんて笑いの対象でしかないと思っていたけど、ある人が、身をもってそれが間違いであると教えてくれたんだよ。そのうえで、ミナヨさんのケツの穴のエレガントさを前にしたら、かつての自分が恥ずかしくなるくらいにね」
 あれ?と思った。どこかで、僕はこの2人と会っているのだろうか?何となく、懐かしい香りもする。
 すると、ケツアナミナヨは、やや間をおいて言った。
「ありがとう、何だかうれしいな。また、私のケツの穴を見てくれるの?」
 ケツアナミナヨの言葉に、僕を含めたギャラリーが皆いっさいに頷いた。
 待ちに待っていたケツの穴女神の再臨なのである。
「でも、ちょっと待ってね。わたし、もう人の嫁だから、旦那の許可がいるのよね」
「え?旦那?結婚しているの?」
「みんな見ていたじゃない?そこのケツアナメデルくんに公開プロポーズされたのよ、わたしは」
 一斉に笑い(wwwwだが)が巻き起こる。
 Web上を通じて、何だか僕に視線が集まっているような気がした。
 僕は、ケツアナミナヨの言葉に笑みを漏らした。確かに、僕はそのナチュラルアナルに恋をしていた時期もあった。
 しかし、今では本当のナチュラルアナルの意味を知った。それはケツの穴の持ち主の心なのだ。
「本当に結婚してくれるの?」
 僕は、冗談めかしてケツアナミナヨに問いかけた。ただ、それでもケツアナミナヨのケツの穴は美しい。
「どうしようかなー、ちょっと煙草でも喫って考えてくる。すぐ戻るから」
 そう言うと、ケツアナミナヨはいったんログアウトした。
「ちなみに・・・最後の1本ね」
 と言う、言葉を残して。
 僕は、はっとして、机の片隅にある煙草を手に取ると、ベランダに出た。

 隣のベランダでは、柵に両腕を置いて煙草に火をつけている矢島南世がいた。
 彼女は、僕の姿を認めると、煙草の灰を夜空に散らしながら語りかけてきた。
「わたし、あんまり自分に自信がないんですよね。就活も上手くいかないし、アルバイトでも失敗ばかり」
 僕は、煙草に火もつけずに矢島南世の言葉に聞き入っていた。
 いや、矢島南世ではない。彼女こそが・・・。
「でもね、一つでも自信ができれば、それは大きく広がって自分の武器になるように思うんです」
 矢島南世は、喫いきった煙草をこの前の様にビールの空き缶に捨てた。そして、その缶を手に取った。
「自分の知らない世界を覗いて、自分の可能性を探って。まだまだ人生は楽しいですよね」
 彼女はそう言うと、手にした空き缶を握りつぶした。
「煙草、ありがとうございました。でも、もう禁煙します。煙草に頼らなくても、わたしはこれからも退屈せずに自分を探す旅ができそうです」
 矢島南世の表情が笑顔に包まれた。それは、初めて見る彼女の笑顔だった。

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