桜色花師の尻奴隷 第②話

[小説]短編

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 俺が桜子の家の離れにある「作業部屋」に出入りするようになってから2カ月が経過した。
 桜子が約束した「給与」はたしかに十分過ぎるほどの額で、彼女のおかげで大学を卒業するまでは生活に困らないようになった。それはとてもありがたいことではあるし、桜子らの過剰なボディタッチも今のところ指を使う程度で収まっているので今のところは甘んじて受け入れているという状況だ。
 それに……俺の醜態を手下の女達がことあるごとに写真に収めている。下手な行動に出れば何があるかわからないという不安が、俺から選択肢を奪う。いつか解放される日が来るといい、俺は希薄すぎる願いばかりを胸に抱いていた。

 そんなある日のこと。

 俺がいつも通り作業部屋に入ると、部屋には無数の花が既に飾られていた。
 桜子の手下の女によるとどうやら彼女達の流派の企画展の開催日が迫っているらしく、会員全員が追い込みの時期に入っているらしい。
(なるほど、これらは桜子の習作ってわけだな)
 俺は無人の室内をぐるりと見回すと、安堵のため息をつきながらマットに腰を下ろした。もしかしたら全員が多忙ということで、今日は休みになるかもしれないと淡い期待を抱きながら。
 ――だが、それは甘かった。

「今日は私ひとりですけれど、よろしくお願いしますね」
 俺より一足遅く入室した桜子が笑顔で頭を下げる。手には普段のベージュ色のロープと異なる、赤いロープが握られているのがひどく印象強い。
「……今日はどうすればいい」
「お尻はもう綺麗にされているんですよね? 服を脱いで、いつものようにマットの上で楽になさってくださいませ」
 今日の桜子はひとりで対応するためだろうか。動きやすそうな意匠のチュニックとデニムを着て、髪をポニーテールに結い上げている。この部屋ではいつも着物姿だったから、どことなく新鮮だ。
 着物の時は意識できなかったふくよかな胸の大きさ、それに対して小さく引き締まったヒップ、露出された真っ白なうなじ。それらがはっきりと見えることで、否応なしに桜子が女であることを自覚させられる。
 だがじろじろと見つめるのも何となく居心地悪い。マットに腰を下ろし、周囲を見回すと――むっとした花の香りが立ち込めていることに気づいた。
「……いい匂いだ」
「ええ。以前は小花が好きで、在来種の清楚なお花をよく使っていたんですけれどね。先輩が来てくださった頃から、大輪の存在感がある外来種も取り入れることにしたんです。色彩が強くて、香りも良くて、見ているだけでも楽しいでしょう?」
 ほら、これも。そう言って桜子は作品の中から薔薇を引き抜いた。棘が取り除かれた、真っ赤な大輪だ。
「これ、先輩に飾ったらきっと似合います」
 そう言いながら俺の前に腰を下ろした桜子が、薔薇の茎に舌を絡めた。透明な唾液がつつ、と糸をひく。そしてその薔薇が――俺の股座に向けられた。桜子の黒目がちな瞳がゆるやかに弧を描く。
「逞しい体には情熱的な色が似合うもの。綺麗に飾って差し上げます」
 空の白い手が俺のペニスを優しく支え上げる。――まさか、ここに挿そうというのか!?
 俺は頭がかあっと熱くなるのを感じると同時に、慌てて桜子の手から薔薇を引っ手繰った。
「……さすがに、モノの分別はつけるべきだと思うぞ」
 互いに荒い息を吐き、一瞬だけにらみ合う。その苦い沈黙を破ったのは桜子の方だった。
「ふふふっ、冗談ですよ。ただ、この薔薇が先輩に似ているなって思ったから意地悪しただけです。本当は私なんか、容易く傷つける力があるくせに……ここに留まって大人しく私の悪逆を受け入れている。それはどうしてなのかしら」
「それは……」
 俺の脳裏にふたつの理由が思いつく。通常のアルバイトでは稼ぐことなどできやしない多額の給与。女達に痴態を記録されていることへの警戒心。そのどちらも重い問題ではあるが――いまひとつ、言葉にするには何かが足りないような気がした。
 言いよどむ俺の胸に桜子が頭を寄せ、左耳をぴたりと当てた。
「本当は、楽しんでいるんでしょう。嫌だ、怖い、汚い、なんて言いながら……いつも最後は女の子のように背中を仰け反らせているんですもの。喘ぎ声まで愛らしくて……本当に可愛い方」
「……!」
「最近、自分でほぐされていますよね。明らかに以前よりも柔らかくなっていますもの。この前なんて少し撫でただけでひくついておねだりするようになって……私達が気づいてないとでも思っていましたか?」
 愛らしい声音の囁きに俺は胸を抉られたような錯覚を感じた。無意識に、大きく腰をひく。俺にもたれかかっていた桜子が僅かにバランスを崩したが、そんなことは知ったものか。――すると、俯いた桜子が哄笑した。
「あらあら、正解なのかしら。こんなに雄々しい方なのに、心はひとり遊びを覚えたばかりの女の子のように敏感だなんて!」
 桜子が嬉々とした顔で俺の肩を掴む。俺はそれを拒むように肩を揺すったが、ある種の絶望が力を奪っていた。
「そんな、そんなことは……ただ……」
「いいんですよ、我慢しないで。ここは誰もが正直になる場所。皆、この部屋では自由に自分の内面を剥き出しにしているのですから……先輩だけがおかしいんじゃない、皆も似たように歪んでいるんです」
 そう言って、桜子は先ほどの薔薇の花弁を唇に挟み……引き千切った。小さな唇に血のような花弁が揺れる。それが唐突に口移しで俺の口腔に押し込まれた。ざらりとした冷たい舌の感触と、なめらかな花弁がゆっくりと俺の口を蹂躙する。やがて舌を引き抜く瞬間――彼女はこう言い放った。
「欲望は開放するもの。私が先輩を開花させて差し上げます。どんな花が咲くものか……ふふっ、楽しみだわ」
 薔薇のねっとりとした奇妙な苦味が口に強く漂う。
 俺は桜子に何も言葉を返せず――ただ、この身がどうなってしまうのかと他人事のように考えていた。

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